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洋学

横田冬彦編『読書と読者』

2015年06月09日

 洋学 at 09:13 | Comments(0) | 書評 | 文化史 | 地域史
◆横田冬彦編『読書と読者』(平凡社、2800円・税別、2015年5月25日刊)が出た。人はなぜ読書をするのか、「より多くの実りを求め、信心のよすがに、新しい交流のため、また家の維持や地域の安寧のため、命を救うため、暮らしをささえる知や経験のために、この国で、男や女やさまざまな業を営む人々が書籍に向かい読者となった時代、そのありようを多角的に描く」と帯にある。
◆編者がまえがきで述べているのは書籍の意味の問い直しと、書籍文化のゆくすえであるとする。「インターネットや電子出版の急速な普及により、紙媒体の書籍がなくなるのではないか、書籍の時代は終わりつつあるという危機感を多くの人たちがもつに至っている。こうした時代を生きている私たちは、書籍が時代のなかで担ってきた歴史的役割を明らかにして、人々にとって紙の本を読むことが大きな意義をもった書籍の時代とはなんだったか、あらためてふりかえってみる必要があろう」と、本書の編纂の意図を述べている。
◆だから、江戸時代を舞台に公家と蔵書、武家役人と狂歌サークル、村役人と編纂物、在村医の形成と書物、農書と農民、仏書と僧侶・信徒、近世後期女性の読書と蔵書について、地域イメージの定着と日用教養書、明治期家相見の活動と家相書など、僧侶、農民、公家・武士、寺子屋師匠、在村医、女性などが、書籍を必要としてきた理由を論文としてまとめている。
◆山中浩之「在村医の形成と読書」は、八尾田中家弥性圓の蔵書調査と意義の研究である。田中家が代々の蔵書の形成を通して医療知識を蓄積し、医療活動を営んできたこと、いわば書籍が医者を形成してきたことを明らかにしている。
◆戦前に、百姓の研究をしようとした中村吉治という東大学生がいた。平泉澄という皇国史観の学者に相談したところ、豚に歴史がないように百姓に歴史はないと一喝された(中村吉治「農民史探求と社会史」『歴史評論』410)。しかし、戦後の地方史研究の進展は、百姓にも歴史があり、じつは彼らの活動が社会を支えていたことを明らかにしてきた。
◆その研究の進展の源は、地域に残された古文書であった。当時、新進気鋭の地方史研究者、児玉幸多、所三男、宝月圭吾、中井信彦、和歌森太郎、佐々木潤之助氏らは、長野県大町市の清水家文書の調査を行い、『近世村落自治史料集』という戦後地方史研究のバイブル的な史料集を編纂した。
 なお、この清水家文書はある事情で散逸しそうになったので、私が長野県立歴史館勤務中に、竹内誠、塚本学、森安彦氏ら多くの方のご協力を得て、無事歴史館に保管され、現在は、清水家近世・近代文書約4万点が長野県宝となり、随時、公開展示されている。
◆しかし、その地方史研究の目録づくりにおいても、庶民の蔵書については、雑扱いされ、顧みられることが少なかった。そうした研究状況も1970年代の地方市史・県史編纂ブームもあり、変化が生まれた。その代表的な研究の一つが、木村礎氏らの大原幽学研究であり、医学史でいえば、同グループの故平野満「蔵書にみる知的状況―平山・宇井・林家の場合-」(『大原幽学とその周辺』八木書店、1981年)が在村医の蔵書に注目している。その後、たとえば小林文雄「近世後期における「蔵書の家」の社会的機能について」(『歴史』76号、1991)なども出て、蔵書も地方史研究の主対象となってきた。
◆近世初期城郭研究者だった編者横田冬彦氏は「近世村落における法と掟」(『文化学年報』5、1986年)あたりから、村落文化研究に注目し、河内屋可正日記との出会いが、その研究方向を決定づけたのではないか。また読書人からの蔵書という視点研究を確立したのが、鈴木俊幸氏の一連の研究で、それは『江戸の読書熱 自学する読者と書籍流通』(平凡社 2007 )として集成された。
◆さて、本書をゆっくり読もうと、読み始めたら第1章に次のような一文があった。横田冬彦氏の河内屋可正との出会いと通俗道徳の連続性についての記事のあとに「また、塚本学の地方文人、高橋敏の村落生活文化史、田崎哲郎の地方知識人といった先駆的研究に加えて、宮城(公子)論文ともあいまって、川村肇の在村儒学、青木歳幸の在村蘭学、杉仁の在村文化論など、全国各地の事例を発掘していくことになる」と書いてあった。


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